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「六十九歳だよ」
「えええっ!」
思わず大声を上げてしまった。それ、私のおじいちゃんと同じ年齢じゃない……
「大器晩成とはよく言うが、晩成過ぎるよな。とにかく、それまでずっとラルティーグは全く芽が出なかったのさ。それでも彼は写真を撮り続けた。まさに、継続は力なり、だな。続けていれば、いつかこんな風にブレイクすることもあるんだ。でも、やめちまったらそこでおしまいだ。ブレイクする可能性はゼロになる。だけどな……本当に嫌になっちまったのなら、無理して続けることもないんだ。アイツみたいにやめちまってもいい。人生、いろんな道があるさ。映見ちゃんは、写真が嫌いか? 撮るのが嫌になったか?」
「いえ、そんなことはありません」
私が即答すると、坂田さんの顔が満足そうにほころぶ。
「だろうな。だったら、続ければいい。いつか芽が出ることもあるだろうさ。でも、そのためには、ただ漫然と続けるんじゃなくて、少しずつでもいいから自分を成長させていかないとな。成長するためのヒントは、前に言ったかもしれないが、写真だけじゃなくていろんな経験をする中で得られる。覚えてるか?」
「ええ、覚えてます」
「いい子だ。実は、俺自身も未だにデビューの夢を諦めちゃいないんだぜ。ラルティーグのデビュー当時に比べれば、俺だってまだまだケツの青いヒヨッコだ。幸いにして、そんな風に夢を追っかけてても食えなくなる心配はない。仕事があるからな。それも写真を撮るっていう、夢に直結した仕事だ。これは僥倖ってもんだろう。君だってそうじゃないか?」
「そうですね」
今日一日の中で、ようやく私は心から笑えたような気がする。それを見て、坂田さんも優しい笑顔になる。
「ま、日々の仕事は食い扶持と割り切ってこなすことだな。あ、でもな、どっちにしても写真を撮ることには違いないからな。案外、日々の仕事の中にも成長のヒントは転がっていたりするものだ。常にアンテナを心に張っておくことだな」
「はい! ありがとうございます!」
私は大きく頭を下げた。
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