フォト日和

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写真部というところは、写真部ならではアルバイトのクチが飛び込んでくるものだ。メーカーや店舗専属でカメラを売るバイトや、写真スタジオでアシスタントをするバイト。どちらもやったが、私はやはりアシスタントのバイトの方が性に合っていた。そして、そこで私は、師匠と呼ぶべき人に出会ったのだ。 坂田さんは五十歳ちょっとのベテランで、スタジオのオーナーにしてメインカメラマン。記念写真から結婚式(ブライダル)、広告写真まで何でもこなす実力の持ち主。スマホで撮った経験しか無かった私に、焦点距離や絞りとシャッタースピードの関係、被写界深度に感光範囲(ラティチュード)といった、写真の幅広い知識を教えてくれたのがこの人だ。さすがにメインはデジタルだが、未だに銀塩で撮ることもあるという。 「坂田さん、写真が上手くなるには、どうしたらいいんですか?」 ある日、私はいきなり坂田さんに聞いてみた。彼は少し面食らったような表情を浮かべたが、やがてゆっくりと話し始めた。 「映見(えみ)ちゃんは十分上手い、と俺は思うよ」 「そんなことないですよ」私は即座に否定する。「だって、フォトコンテストにかすりもしないんですから」 「うーん……」坂田さんはしかめ面になる。「そうだねぇ……確かに君は、技術は水準以上になったと思う。その意味では君は『上手い』。でもね、表現者としては、まだまだ未熟かな」 「表現者としては、ですか?」 「ああ。写真にしろ絵画にしろ、何にしても、作品というものにはね、その作者の内面が表れるものなんだ。だけど……ちょっときつい言い方になるかもしれないけど、君の作品には、それが希薄なように見える」 「……!」ショックだった。「私の作品には……内面が表れていない、ってことですか?」 「というより、君はただ撮ることだけに夢中になっていて、何かを伝えたい、表現したいという意識そのものが希薄なんじゃないか?」
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