7人が本棚に入れています
本棚に追加
「!」
さらにグサッときた。言われてみればその通りだ。私はただ、きれいだな、と思ったものをそのまま撮っているだけに過ぎない。それ以上のことは何も考えていない。
「きれいなものを見た感動をそのまま伝えたい、という君の気持ちも分かるよ。でもね、君はそれが素直すぎるんだ。君なりの思い、とでも言うのかな。そう言ったものが感じられない。だから見る人の心に引っかからない」
「私なりの思い……ですか?」
「ああ」
「そういうものは……どうしたら身につくんですか?」
「そうだねぇ……やっぱり経験だろうね。写真ばっかり撮ってるだけじゃダメなんじゃないのかな。君はまだ学生なんだし、時間はたっぷりあるだろ? だったらいろんな経験したらいいと思うよ。それも実体験でなくてもいいんだ。映画を見るとか、本を読むとかさ。そういったことが、君の引き出しを増やし、内面を磨いていく。俺はそう思うよ。映見ちゃん、土門拳ってカメラマン、知ってる?」
「なんか、名前は聞いたことがあるような……」
私は首を捻ってみせる。
「たぶん、映見ちゃんが生まれる前に亡くなった人だから、知らないかもね。だけど彼は昭和の時代に大活躍した写真家だったんだよ。でね、その人がこう言ったんだそうだ。『仏像は走っている』ってね」
「……え?」
わけが分からなかった。仏像が走るの? 怪奇現象?
そんな思いが顔に出たのだろう。坂田さんは大笑いした後で、言った。
「土門拳はね、文筆家としてもすごく優れた人だった。たぶんたくさん本も読んでたんだろうね。簡潔だけど本質を突いた、まさに名言だよ。そう思わないか?」
「はぁ」
私はあいまいな顔でうなずいた。
---
最初のコメントを投稿しよう!