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「どうした?」
スタジオでの仕事の休憩時間。いつの間にか、坂田さんが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「あ、いえ、何でもないです」私は笑顔を作ってみせるが、もう随分長いつきあいの彼にはそんなものが通用しないことも分かっていた。
「本当か? 何だか随分元気がなさそうに見えるが」
「……かないませんね、坂田さんには」
私はフォトコンテストのことを話した。
「そうか……それは辛いな」
坂田さんは苦い顔でため息をつく。
「私……才能ないですよね……」
必死で涙をこらえる。泣いちゃいけない。そう自分に言い聞かせる。だけど……声の震えは隠せなかった。
「なあ、才能って、何だろうな」と、坂田さん。
「え?」
「才能が開花したら、それで幸せになれるのかな?」
「……そうじゃ、ないんですか?」
「ちょっと待ってて」
坂田さんは自分の部屋に向かい、すぐ戻ってきた。手に一冊の古ぼけた雑誌を持って。その表紙には見覚えがあった。
「この写真だけどな」
「!」
そう言って彼が開いたページには……まさに、私を写真の世界に誘った、あの棚田の風景写真があった。
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