わすれなぐさ。[沖田総司短編集]

ニ、鬼も浮かれる。

｢やー、買った、買った｣
｢買ってやったんだ、馬鹿｣
｢いたい！｣

　脳天の痛みに叫ぶと、土方は彼特有の左右非対称の笑みを浮かべた。

｢おまけだ｣

　もう一つ振り下ろされそうになった拳を、避けようとして総司は諦めた。祭りの夜は、この仏頂面が張り付いたような男でも浮かれるのだ。と、まぁ、

｢いたい！｣

　悲鳴は堪えようもない。

　試衛館道場にて、総司達は起居している。
　すでに真っ暗になっている夜道を戯れ合いながら馴染みの場所へたどり着いた。すでに他の者は床についている。

｢あれ、どちらへ？｣

布団を敷いていると、土方がふらりと戸口へ向かっている。