三、つめたい手。

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「あっちへ行ってろ」  猫を払うような仕草をし、土方はしっしっと歯の間から音を鳴らした。 仕草に合わせて水が飛んで来る。  ぺろりと上唇についたそれを舐め取ると、土方の眉間に皺が寄った。しかし何を言うでもなく、再び手を洗い出す。 総司は軽く鼻を鳴らし、腰を浮かした。  下駄を素足に突っかけ、ぶらりぶらりと神経質な兄弟弟子へと歩み寄る。手元を覗き込み、 「そんなに洗ったって取れやしないでしょうよ」  水音が止まった。肩が揺れた。 それを、総司は無知な幼い子供を見るように目を細めて眺める。 「どれ、わたしに見せて見てくださいよ」  やけにおどけた調子でそう言うと、土方がこちらを向いた。ひとつに束ねた見事な黒髪が、ぱっと舞う。  やや乱れた前髪の間で、鋭い目が仇を見るようにこちらを睨めつけていた。  しかしその目に動揺が見て取れる。
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