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「そこまでッ」
決着は、ついた。
三本勝負、沖田が二本、土方が一本。
沖田は泣きたくなった。
左篭手がじんじんと痛むが、そのせいではない。
(…………違う)
通例通り、礼をしながら、沖田は唇を噛んだ。
相手の顔は面に遮られて見えない。
またあの拗ねたような退屈な表情を浮かべているのだろうか。
(違うんです、先生)
何が違うのかは分からないまま。沖田は左手を握った。
この時から、トシサン────土方歳三は、天然理心流の門徒となった。
沖田とは九つも違う、二十四歳のこの青年は、近藤に歓迎とばかりに撫でくり回されぼさぼさになった頭のまま、ぶっきらぼうに、
「よろしくお願いします」
と頭を下げた。
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