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四、馬鹿の夏風邪。
「わたしは夏に生まれたんですよ」
総司は障子の外を頬杖をついて眺める。京の夏は暑い。
絡みつくような熱気。頼みの綱であるわずかな風は、咽るように熱を帯びている。
「だからかな、夏に体調を崩すことがないんです。暑気あたりもなければ腹を壊したこともないんですよ。どうも夏とは仲よくできるたちらしい」
うちわで首筋にぱたぱたと風を送り、総司はくすりとした。
「だがなァ、土方さん。あんたも夏の男でしょう。五月と来ちゃァ、もうずいぶん暑い時期だと思いますよ。なのに土方さんと来たら。情けないですよわたしは」
ひとりごとを言っている訳ではない。ただ、相手はうだるような暑さの中、布団を被って横臥していた。
「うるせェ。脳天気なお前と違ってな、こっちは」
掠れた声で言いかけ、軽く咳き込む。
「こっちは年がら年中多忙なんだ。今だって本当は臥ている暇なんざねェ」
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