四、馬鹿の夏風邪。

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(感染すのがこわいんでしょう、あんたは) (そんなんじゃねえ。てめえなんか、百回倒れても勝手に起き上がるだろう。怖かねえよ)  頭の中でも奴さんは強情だ。総司はくすっと笑った。 白でしょうと言えばすかさず黒だ馬鹿野郎と声高に言う。  それが可笑しくて、つい総司はからかってしまうのだ。 「早く元気になぁ〜れ……」  微睡みの中、ぽつんと言った。  遠くで雨が降っている。 「ッ────」  悪い夢を見た気がした。  飛び起きると、ひたと湿った音を立てて手ぬぐいが落ちる。同時に、ぐわんと仄暗い部屋が歪む。 「う」  前髪を引っ掴み、背を丸め目眩をやり過ごす。  落ち着いた頃には、弾んだ息も収まっていた。 「総司」  気配がして名を呼ぶ。すぐそこにいるかと思ったが、応答はない。 (おれも、不調があると鈍るらしい)  土方は、赤い唇を歪めた。
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