39人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「おうよ。天才剣士総司さんよ」
急にぞんざいな口調になる。
口元に浮かんだのは、笑みというには少しばかりひねくれていた。
「そう、その事なんですけどね」
沖田は顎に手をやり、うーんと唸ってみせる。
「どの事だ」
「天才剣士、という事です」
「自分で言うか」
「近藤先生が言うなら、そうなんです」
「ねんねめ」
「残念ながら十五なんですよ」
ぽんぽんと言葉が交わされ、沖田はついくすりとした。
この人とはぞんがい、上手くやって行けるのかもしれない。
「入門前に、わたしと手合わせしたアレ」
人差し指をぴっと立てる。
釣られたのか、トシサンの視線がそちらへ向いた。
手合わせの後、井戸水で顔を洗った。
汗を落として頭を冷やすと、ふっと思い当たったのだ。
何が違ったのか。何に泣きたくなったのか。ひょっとするとトシサンは、
「本気じゃなかったんじゃないですか?」
最初のコメントを投稿しよう!