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踵を返し、自室へ戻ると障子を閉めた。
同室の井上はいない。少しの間畳の目を眺め、総司は自室を飛び出した。
「土方先生は頑としてお聞きにならないが、近藤先生はやはり器が違い────」
隊士達がごろごろしている広間には、ふだん以上の人数が集まっていた。長雨で退屈しているのだ。
稽古も済んだらしく、雨の匂いと汗の臭いが混じって、大雑把な総司でも眉を寄せたほどだ。
否、眉間のしわにはもう一つ、理由があった。
先程からやたらと近藤先生、近藤先生、と繰り返す男の声だ。
総司が訪れたことで一瞬やみ、黙礼を送りはしたものの、再び先生は、先生はと繰り返す。
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