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「竹刀じゃ人は死なん」
「ええそう、そうなんです。だからこそあなたはすごいぞ、と思ったのに」
ため息をつき、踵を返す。案内を続けるべく裸足でぺたぺた歩き出した。
「えっとあとは、原田かな。ふだんはちゃんと原田さんって呼ぶんですけど、あの人は好い人ですよ。なんていうのかな、馬鹿────」
沖田の足が止まった。ぞわりと肌が粟立つ。
「それだ」
思っているよりもずっと静かな声が出た。
応えるように全身が脈打つ。
背後に立っているのは、薬屋でも、退屈そうな若者でも、トシサンでもない。
土方歳三という────獣を飼い慣らした剣士だった。
我に返れば、土方の両腕を掴んでいた。
「そ……それをください、わたしにも」
土方は口を開かない。品定めするようにじっとこちらを見下ろしている。
「わたしにもそれを向けてください、次こそ」
息をも忘れて継いだ言葉は、本人すら予期しないものだった。
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