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「でもやはり、あんたはわたしより強いと思います」
「まだ言ってやがるのか」
ええ、と沖田はおどけた顔をしてみせる。
「わたしはね、土方さん」
春のぬるい風が素足の指先をくすぐるのが心地よい。
「あんたの眼がすきだな」
「はあ?」
土方が振り返った。何を言ってやがる、と顔に書いてある。沖田はけらけら笑った。
「向き合った時、あんたの眼が見えたんですよ。あ、殺されるって思うような、こう……なんていうんですかねえ、野生の獣に対峙してしまったような」
それがすきなんだな、と沖田は独り言のように続ける。
「腹が減りましたね、土方さん」
沖田の話はいつも突拍子もない。
思いついた側から内に留めることなく吐き出されるかのように、筋というものが通っていない。
土方はとっくに知っているから、がしがしと後頭部を掻くと、伸びをした。
「腹が減ったな、総司」
「それはさっきわたしが言いました」
「うるせえ。おれァ今腹が減ったんだ」
「はいはい。行きましょうか」
言いながら、素足に下駄を突っかける。
日に焼けた焦げ茶の髪が揺れて、同じ高さの土方の頭を追い越した。
「総司」
呼び止める声に、沖田は振り返ることなく足を止めた。
「はい」
「……」
黙する土方を、ようやく沖田は振り返った。土方はふっと笑う。どこかくらい笑みだった。
「なんでもねえ」
「そうですか」
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