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ニ、鬼も浮かれる。
「土方さん」
暗い雑踏の中、声を上げた。
黒い着流しに深紫の帯を締めた長身痩躯の背には、覚えがありすぎるほどあった。
(聞こえなかったのかな)
「土方さん、土方さぁん」
口元に手を添え、声を張り上げる。
やりながら、彼を追っかけ回しているおんな達は大変だなァと思った。あんがい、おんなというのは強いものなのかもしれなかった。
「人を小っ恥ずかしく呼びつけておいて、何してやがる」
「いたい!」
容赦なく打ち付けられた拳に悲鳴をあげると、いつの間にやら真正面に立っていた美丈夫は、満足げに片頬を歪めた。
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