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五、あめの日。
ぱらり。
唐傘の閉じる音がして、総司は本から目を上げた。
戸を開ける音。少し湿った足音。
瞬きもせずそれを辿っていたが、やがて開いた頁もそのままに体を起こした。
「土方さん」
廊下へ出て声を上げる。
左右を確かめてみるが、姿はない。
重く強い雨が屋根を叩く音ばかりが耳につき、かんじんの足音がかき消されてしまう。
「土方さん」
もう一度呼びかけてみるが、応答はない。
気のせいだったのかもしれない。
総司は肩をすくめ、ようやく少し笑った。
雨は苦手だ。特に、夏前のこの季節の雨は。
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