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きっとその葛藤は、天使になり立ての者ならば誰しもが経験する事だろう。
手を伸ばせば届きそうなところで、誰かが苦しんでいる。しかし、実際に手を伸ばして救う事は、許されていないのだ。
そうする事によって、僕たちには理解出来ないような、何かとてつもなく大きな理(ことわり)が、崩れてしまう可能性があるから。
「――模範解答、ですね」
うつむきながら、彼女が言う。
「当たり前だよ。君が思っている以上に、ぼくは優秀な天使なんだから」
「なら、わたしの考えは、わたしの行為は、あなたには理解していただけないんでしょうね」
「そうだね。神の考えに背くなんて、馬鹿げている。どうかしているよ」
彼女は、力なく笑った。つられてぼくも、ふ、と笑う。
「……幻滅した? 天使に。ぼくに」
「いえ。ただ、強いな、と思って」
わたしには、そんなの到底耐えられないだろうから。――そう続ける彼女に、ぼくは首を振った。
「ぼくは、全然強くなんてないよ。本当に、ただ――なれただけさ」
何が正しいか、何が間違いかなんて、ぼくには分からない。
ただ、ぼくは、天使だった。
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