変化を恐れる人

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変化を恐れる人

大学を卒業して最初の夏、高校生時代のクラスの同窓会の最中、葵は糸が切れたように急に泣き始めた。周りが彼になんと声をかけても葵は反応することはなく、そのまま泣き続けていた。 「昔を思い出して、その懐かしさから感極まったのか。」 しばらくして葵が少し落ち着いたように見えた頃、親友の玲がそう尋ねた。葵は俯いたまま首を横に振った。 「それじゃあ嫌なことでもあったのか。」 葵はまた首を振った。しかし俯いた姿勢のまま言葉を一つ一つ選ぶようにゆっくりと喋る始めた。 「悪いな、だが俺は昔を思い出して感極まったわけではなく、またもちろん嫌なことがあったわけでもない。ただ俺は環境が、そして俺が変わってしまったことが寂しくて堪らないんだ。」 その後はそれ以上何も言わずに、葵は気づくとその場から居なくなっていた。 「そうか、秋みたいなやつだなあいつは。」 玲は次の日、ふと葵の言ったことを思い出し、あの言葉に不図共感と納得を何故か覚えた。玲は急ぐ様に大学の仏教学の授業で使ったテキストを探し出し、お目当てのページを探し始めた。 そうか、愛別離苦か。玲は葵が愛するものとの別れの苦しみを意味する愛別離苦に陥っていると理解した。愛するものといっても人だけではない、環境すら愛別離苦は対象となる。 しかしそうはいっても葵の言動は過剰な反応なのではないだろうか。玲は自分が高校を卒業した頃、そして大学を卒業した今を思った。確かにその時々の自分は新しい環境を前に奮起し、活き活きとしていた。では葵は何故それほど悲しむのだろうか。 玲は急に胸が圧迫されているように感じるのと同時に脂汗が脇を伝って腹を流れているのを感じた。
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