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何事もなく一日が終わり、八時過ぎに朝と同じ米の少ない雑炊を啜っていると、誰かが玄関の扉を叩いた。
「こんな時間に誰かしら?」
私は茶碗を置き、玄関まで行って、扉を開けた。
「あら、吉三君じゃない。こんな時間にどうしたの?」
そこに立っていたのは、町役場の戸籍係に勤める吉三だった。吉三は私よりも二歳年下で、家が近所だったこともあって、子供の頃はよく一緒に遊んだ仲だ。
「まあ、お入りなさいよ」
私はそう声をかけたが、吉三が中に入ってくる気配はない。そして、吉三は突っ立ったまま、ひどく神妙な表情を浮かべている。その表情に、私は嫌な予感がした。
「ご主人はいますか?」
吉三は普段と違って、丁寧な口調で尋ねてきた。
「いるけど……ちょっと待ってね」
私はそう断ってから、今の方に向かって、
「あなた、町役場の吉三君よ」
と呼びかける。
しばらくすると、夫は面倒臭そうに頭を掻きながら、
「こんな時間にどうしたっていうんだい?」
と言って玄関に姿を現した。
夫の姿を確認した途端、吉三はキリッと背筋を伸ばす。その雰囲気に、夫も私と同じ嫌な予感を受けたのか、急に顔が青ざめていく。
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