Letter

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 どこからともなく、風にのって金木犀の香りが漂ってくる。貴方が旅立っていったのも、ちょうど金木犀の咲く頃だった。  私は今でも、あの日のことを忘れられずにいる。刈ったばかりで青々とした頭に、不似合いな軍服。そして、心の不安が滲み出た顔。  貴方を送り出したくなんてなかった。互いに年老いるまで、ただ一緒にいたかった。だけど、あの日、一通の手紙が、全てを変えてしまった。  昭和十九年十月二日、その日はいつもと同じようにやって来た。私は朝から僅かな米で雑炊(ぞうすい)を作っていた。  我が家は金物屋だったのだが、飛行機やら鉄砲やらを作るのに鉄が必要だとかで、商品は全て供出した。おまけに、仕入れをしようにも、商品自体がない。おかげで、収入も途絶え、僅かな配給だけで、やっと食いつないでいる。  私のお腹には赤子がいる。夫にとっても私にとっても、もはや我が子が生まれてくることくらいしか楽しみはない。夫はいつも、「子供のためにもしっかり栄養をとれ」と、私に優先的に食べさせてくれる。そのおかげで、元々はそれなりに恰幅のよかった夫も、今では痩せ細ってしまった。  それでも夫は、「僕は少しくらい痩せたほうが良かったくらいだから大丈夫だ」といつも笑ってみせる。私はそんな夫の優しさに甘えさせてもらっていたが、時々、夫の姿を見て申し訳なく思った。
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