一行の謎

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 海沿いの参道を桟橋に向かって歩き出す。参道は海側の堤防沿いに松の木が植えられ、数メートルおきに石燈籠が並んでいた。  参道が海に向かって大きく張り出し、海上の大鳥居が間近に眺められる場所は、参道の幅も広がり、写真を撮ろうとする観光客で混雑していた。撮影台を据え付けた写真屋や、道端に人力車を停めた人力車夫が、さかんに売り込みをしている。中でも、真っ黒に日焼けした人力車夫の声が一段と大きかった。 「お姉さん、人力車に乗っていかんかね。水族館でも西の松原でも大聖院でも人力車だったら、(らく)うに行けるよ」  見たところ五十代くらいのおじさんで、剃り上げた頭に藍染めの鉢巻きを巻いている。愛想よく微笑んで、通りかかる観光客にさかんに声をかけている。  「人力車じゃったら視線が(たこ)おなるけぇね。一味(ひとあじ)(ちご)おた景色が味わえるよ」  遠慮のない広島弁に観光客たちはくすくすと笑いながら過ぎていくが、おじさんは気にする素振りもなく次々と声をかけている。  「道中の左右に並ぶ名所(めーしょ)や史跡を(こま)こお説明しながら行ったげるけぇね。ちーとも退屈ぅはさせんよ」  思わず足が止まった。このおじさんなら地元の情報を詳しく知っていそうだ。瑞紀(みずき)からは、謎そのものを見せてはいけないが、周りの人から話を聞くのは構わないと言われていた。人力車でいろんな話を聞きながら行くのも、謎解きの有効な方法かもしれない。おじさんに声をかける。
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