一行の謎

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 一時間後、俺は御笠浜の砂浜でしゃがみ込んでいた。ここに到着してから、大鳥居の外側まで歩いて行き、そのまま西松原まで歩いて行った。石燈籠と松の木が西松原に一度上陸してから、歩いてこちらへ戻って来たのだ。その間、何か手掛かりはないかと気を配っていたのだが、特別なものは何もなかった。  ポケットから問題文を取り出して眺める。  『日和の間に招き入れ 手を取った世に遷されし』  これがどこかの場所を示していると言うのだが……。 考えても思いつくものが無かった。気分を切り替えようとして周りの景色を眺める。潮は引いたままだが、厳島神社の社殿の下から川のような水の流れが大鳥居の方向に続いている。人力車のおじさんが言っていた紅葉谷川の河口が社殿の下にあるのだろう。  社殿の下を見ていて、砂浜の上に何か動くものがあるのに気が付いた。立ち上がって見に行ってみる。鉛筆の先のような巻貝がたくさん落ちている砂浜を進み、神社の廻廊の近くまで行ったところで動いているのが何かわかった。  砂浜の上に大きさ二センチくらいの白い蟹が何百匹も並び、胴体と同じくらいの大きさかある片方のハサミをリズミカルに動かしている。何かを呼び込もうとしているようだ。  もっとよく見えるようにと一歩踏み出した時、 「やめてください!」 女性の声が上から響いた。
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