二人の盗賊

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二人の盗賊

ゴブリンの頭髪ほども晴れ渡らない空。鼻をかんだティッシュのような雲が空一面にはりついている。ティッシュから滴る鼻水が落下して、とある衛兵の後退した額でパチンとはじけた。 「あーあ。泥棒でもはいらねえかな」  衛兵のウマーがそういうと、隣の衛兵シカーが唾液を飛ばして笑った。 「おいおい、蟻をもてあそぶくらいしかやることがないからって、それはまずいぜ」 「でも、おれたちいるか? どう考えたってこの家におれたちは必要ないぜ。なんせこの家には……」 「そりゃそうだ。しかし、王妃様の叔父として、プライドがあるんだろう。衛兵のいない王族の家なんて馬鹿にされる」 「ま、ここで盗みをする奴なんか――脳ミソ落っことしたようなネズミくらいしかいないか……」 二人の背後には、鉄の門を隔てた数十メートルさきに石造にみせかけた木造の小城がある。王族であるポニートが精一杯の見栄を張った三階建てのハリボテだ。 三階、ポニートを狂ったように美化した肖像画のある執務室では、華奢で色白のメイドが灰色の髪をなびかせながら掃除をしていた。なめらかな肌、凛とした眼、鼻は高く、唇は艶めいている。妖艶な素足と豊満な胸の谷間を見せつけていた。  これみよがしに置かれた金と銀の調度品や、魔獣の頭のはく製を適当に箒ではたき、ブラッグウッドの壁に水をぶちまける。推定七〇代の彼女は最後に、真っ赤なカーペットに唾を吐いてでていった。  
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