ドタバタ捜査

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 それから、腹を空かせた二人は魚市場で新鮮な魚介類を盗みだした。盗賊なだけあってこういったことは息が合う。さらに、ルンペルの樹木魔法とナッチの水流魔法の合わせ技で、酒場の裏から酒樽を盗んだ。  その日の夜、ルンペルがアジトとして使っている、街の高台にある空き家の屋上で、ちょっとしたバーベキューをひらいた。明後日の夜には死体になっているかもしれない。陰鬱な空気のまま、無言で焼いた魚を頬張る。  ところが、酒樽に詰まったラム酒を浴びるように飲むと、酔っぱらった二人は陽気に談笑をはじめた。生まれ育った町の話や身の上話、盗賊になった理由や体験した面白い話など、話は尽きることなく、滝のように言葉を垂れ流しあった。 夜も更け、バーべーキューの火が消えるころ、二人は屋上の縁に腰かけて、眼下に望む町の全景を眺めていた。 「フランジア?」ナッチは眉をひそめた。 「そう、フランジア。沢山の人種や種族が住んでいる巨大な多民族国家だ。そこにはいろんな遺跡や文化で溢れているし、なによりあの辺は蒸気機関ってえすんごい機械があるんだよ。おれはそこに住みたくてよ。そのための金を稼いでたんだ」 「へえ。蒸気機関ってのはなんだ?」 「蒸気機関ってのはすんごいぞ。大きな鉄の箱を遠くへ運んだり、布を作ったり、鉄を作ったり――そうだ」  彼はおもむろに服で隠れていた胸元からネックレスをだしてみせた。たくさんの歯車がじゃらじゃらとついており、トップには赤い宝石のような玉があった。歯車にはさしたる興味がなかった彼女だったが、赤い玉の装飾に釘付けになった。その宝石に見覚えがあったからだ。 「あんた……それ」ナッチは赤い玉を指した。  上機嫌に歯車の用途を話していた彼は、話の腰を折られて、つまらなそうに肩をすくめた。「ああ、これか。母親の形見だ。死ぬ間際にくれた」 「それ【溶解の水晶】じゃないか!? ポニートの奴が展覧会で見せびらかしていたのと同じだぞ!」  いかなる呪縛も溶かしてしまうという貴重な魔術具をのんきにぶらさげていることに彼女は困惑した。
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