ドタバタ捜査

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ルンペルは、それが魔術具であることを知らなかった。もちろん効果も知らない。彼は胸裏でなぜ自身を嫌っていた母がお守りにとくれたのか、理由がわかった気がした。きっと彼にたいして女が抱く嫌悪感を溶解するという意味なのだろうと一人、納得する。 「いいかルンペル。それを使えば、このクソッタレな魔術紋を消し去ることができるんだ。ただし、一回だけだ。対象にかけられた呪縛を溶かせば、それはただの石に戻る」  ルンペルは青天の霹靂だったようで、ぽかんと口をあけて水晶を手にジッと見つめた。 ナッチは思う。使うか使わないか悩んでいるのだろう。母の形見を石にしてしまうのはもったいないとでも考えているはずだ。しかし、命がかかっているこの状況だ。どう考えても使うべきだ。使え、使え、使え! もし、使えばこのブタとおさらばだ。トイレに行くとオークがドア越しで待っているという、とんでもないストレスがなくなる。足手まといが消えれば犯人探しもやりやすい。彼女は心から彼が呪いを解いて消えてくれることを願った。 しかし、彼は頭を振った。 「いや……。使うのはやめておく。これは、母親の形見だ。魔術具じゃない。形見なんだ……」彼はそういってネックレスを胸元にしまった。  そういわれてしまうと、責めることはできない。彼女は渋々といったようすでため息をついた。しかし、ルンペルは嘘をついていた。水晶を使ってしまえば、どちらにしろ彼女と離れ離れになってしまう。もっと一緒にいたいから使わない、というのが本音だ。
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