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昼すぎ、ルンペルはシュタームにおいて一件目とされる、貴族が殺された家にいた。床に這いつくばって、なにか手掛かりがないかと必死で探す。今日の何時に死の魔術紋が発動するかわからないのだ。いつ首が飛んでもおかしくない状況に焦燥感を募らせる。
床のカーペットを犬のようにベロベロ舐めていたとき、不意に足音が外から聞こえた。騎士や衛兵ではないかと思った、彼はテーブルに身を隠してようすを窺う。扉が開かれてだれかが入室した。それは貴族の服装をした少年だった。
少年は注意深く周囲を観察している。
「小僧、なにやっているんだ?」
その声に素早く振りむいた少年は悲鳴をあげた。魔獣だ。魔獣がいる。
「食べないでください!」
涙ながらに懇願する彼の誤解を解いて、なだめつつルンペルは少年の話を聞いた。彼はこの家で殺された被害者の甥っ子であり、なかなか犯人を捕らえられない衛兵団にしびれをきらして、自身で捜査をはじめたそうだった。
「叔父は呪術を使うとかなんとか聞いたことはあるか?」
「うん。使えるよ。見た目の年齢を自由に変えられたんだ!」
ルンペルはふと、二件目の現場にあった水晶に残っていた雷撃魔法が紫色であることを思いだした。
「紫の雷撃魔法使いで見た目の年齢を変えられた……。たとえば、犯人は女で、おばあさんに変えられて、鏡をみて怒り狂って壊した。それから魔術師や商人の家を襲って、解除するための道具を探している……」
ぶつぶつとつぶやく彼はナッチの言葉を思いだした。『それ【溶解の水晶】じゃないか!? ポニートの奴が展覧会で見せびらかしていたのと同じだぞ!』
「犯人はポニートのもつ溶解の水晶を狙っている紫の雷撃魔法使いでおばあさん……あ!」
ここにきてようやく彼は犯人の目星がついた。初日に蹴散らされたあのメイドだ。彼は小年に礼をいって部屋を飛びだした――。
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