二人の盗賊

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やがて、平穏をとりもどした執務室の窓に、女の顔がせりあがった。一重の鋭い目つきで室内を覗きこんで誰もいないことを確認、右手を窓ガラスにあてて開錠の魔法を発動。カチャリと音がして窓がひらかれ、まんまと侵入した彼女は即座に部屋のドアを施錠した。 にんまりと笑顔を浮かべる彼女の名はナッチ・フェスカー。若手の盗賊だ。ピンク交じりの白髪ショートヘア、小ぶりな胸の高身長で薄汚い茶色のブリオー(丈の長いブラウスのような服)に薄手の黒いクロークをまとっている。 彼女は上機嫌に尻をふりながら、調度品を手にした麻袋に食わせていった。やがて、重厚な机に目をつけた彼女は、下品な笑顔を浮かべつつ椅子に座って、手をすりあわせてから、そっとあけようと――。不意に声がした。 「あ、よいしょっと」  ナッチが笑顔のまま声の方向に視線を送ると、窓に手をかけて男が室内に乗りこもうとしていた。さきほど彼女があけた窓だ。オークのようなむさ苦しい三〇代の男で、濃い顔で髭を伸ばしている。すでに汗まみれになっている彼の名はルンペル・シュタイン。黄ばんだブリオーに金のアクセサリーを身に着けた小男だ。  ルンペルは石のように固まった女をみつけると、同じく石化した。思いもよらない事態が互いを襲う。彼女はまさか窓から男が侵入してくるなんて思いもしなかったし、ルンペルもまた、室内に人がいるとは考えていなかった。 しばしの間があって、彼は苦し紛れに、こんにちはと挨拶した。呆気にとられていたナッチはその言葉に正気を取りもどす。 「『こんにちは』じゃねえ。だれだあんた」 「ん? おれは……用心棒だ。ここの主人に、番人を頼まれた」 「そんなきたねえ格好で……というかきたねえ顔でか? 王族が? あんたみたいなブタを?」 「ああ、そうとも。ここらへんは盗賊が出没しているらしくてな。庭の見回りをしていたら、窓があいてたから……もしかしたら盗人がいるんじゃないかと思ってきたんだ」  ナッチの顔に数十本の冷や汗が伝う。胡散臭い話ではあるが、事実ならば危機的状況だ。 「それで、お前はだれだ?」ルンペルはソファに座って尋ねた。 「あたし? あたしはここの……メイドだよ。そう、メイド」 「そんな派手な化粧ときたない格好で? 売春婦くずれのメイドなんて王族が雇うか?」 「これはご主人様の趣味さ」  それは言い逃れとしてはあまりにもバカバカしい話ではあったが、ナッチの 予想した通り、彼は救いようのないほどの馬鹿だった。 「なるほど。ルンペル・シュタインだ。よろしく」 「あたしは、ナッチ・フェスカー。よろしく」
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