未知の国へ

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 夕方、暗雲が雷鳴を轟かせ、じめじめとした湿気を地上に落としている。 ウマーとシカーは、庭で剪定している若いメイド二人の、どちらがより可愛いのかをめぐって口論していた。やがて一触即発の雰囲気になり、あわや殺しあい寸前にまで対立していた二人を、ふらっと現れたルンペルが仲裁した。 「盗賊がなにをしにきた。命乞いでもしにきたのか?」  そう問いかけるシカーの右頬に右手を添えて、奇異そうに彼をみつめるウマーの左頬に左手を添えて――ルンペルは持ち前の怪力で彼らの頭をかちあわせた。 泡を吹く衛兵たちを背に、仁王立ちする盗賊。その姿に気づいたおばあちゃんメイドが尋ねる。 「おやおや。犯人はみつかりましたかね」 「なにいってるんだ。お前が犯人だろう!」 ぽかんとする三人のメイド。ルンペルは見聞きして知った情報を話し、メイドを問い詰めた。容姿について、紫の雷撃魔法、そして溶解の水晶のことだ。 「……そんな証拠もないのに、わたしにいわれましても……。わたしはただ孫のためにここで働いているだけです……」  若いメイドのババとカカは口を尖らせて彼女を擁護する。 「そうだそうだ! メアリーおばあちゃんは三日前にメイド協会から派遣された素性のしれない謎のおばあちゃんで、やたら強力な雷撃魔法使いで、ちょっぴり口が臭くて、そして溶解の水晶の掃除をしたがっているだけの優しいおばあちゃんなんだぞ!」  ババにカカが乗じる。「そうだよ! 血の臭いがするし、夕方になると次の日の朝まで帰ってこないし、投げナイフいっぱい持ってるし、勤務態度も最悪で魔術書をいつも漁ってるけど、みんな孫のためなんだよ! メアリーさんを悪くいうなんてどうしようもない盗賊め!」 ルンペルは冷や汗を流した。そういえば証拠がない。彼女たちの話を聞く限り、どう考えてもメアリーなるメイドが犯人だが、証拠がなければ意味がない。 そうこうしているうちに、メアリーはにやりと笑う。 「結局、あなたさまは殺人鬼を捕らえられず、わたしを犯人に仕立てることで罪を逃れようとしているのでしょう。ああ、あまりにも酷いではありませんか。これは……痛い目をみせてあげるべきだとは思いませんか、ババちゃんカカちゃん」 その一声に彼女たちは臨戦態勢に入る。ババは鋼鉄魔法を、カカは氷結魔法をまとう。女性に手をあげるのは男として不甲斐ない。しかし、とにもかくにも若いメイド二人を倒さないと話がはじまらないようだ。  不本意ではあるが――やれやれ、と思いつつ彼は草花魔法を発動。庭を覆う芝生を数センチのばした。
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