未知の国へ

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しばらくして、メアリーはいい加減に飛んでくる水の矢に嫌気がさし、狙いを女に切り替えようと胸裏で考える。男の動きはすでに把握済み。チェックメイトを仕掛けるときだ。 それはルンペルが雷撃を避けるために下がったときだった。その隙をついてメアリーは懐からナイフを抜いてナッチへと投げつけた。  高速で放たれた五本のナイフは、すべてが対象の女に命中した――。ナッチは上半身に深々と刺さされて跪く。二本は腹部に、一本は肺を穿ち一本は喉に刺さった。最後の一本は心臓へ……。致命傷だ。 つづいて相棒が倒れたことで、愕然とする男にむけて雷撃を放ち、彼を感電させた。 「ぎゃはは! 終わりだ。残念だったな」ルンペルをみおろして彼女はいった。 彼女の勝利宣言に、ナッチは吐血しながら睨みつけ、最後の一本を構えた。 「終わりはお前だよお!」 ルンペルが叫ぶ。 その瞬間、ときおり轟いていた雷鳴がいななき、閃光とともに雷が大木へ落ちた。落雷を受けて真っ二つに割れた大木には、雷が帯電する。 メアリーはここにきて敵の策を悟った。全身に浴びた水、眼前の雷と水の矢――。彼女は咄嗟に離れようとしたが、右足が動かない。ルンペルは感電した状態でもなお、その身を奮わせて殺人鬼の足を、自分の鎖で縛っていた。 「これが、あたしらの雷撃だ」ナッチがつぶやく。 放たれた矢は、割れた大木の間を通りぬけて、雷撃をまとう矢へと変わった。  メアリーはうろたえて雷撃で相殺しようとするが、どんなに強力な魔法であれ、本物の自然の力には抗えない。 轟音とともに、殺人鬼は全身から煙を吐きだし、髪を焦がして倒れた。鎖のせいで同じように感電していたルンペルは、煙を吹いて立ち上がった。すぐさまナッチのもとへ駆け寄って倒れている彼女を抱き起こす。すでに虫の息で、虚ろな目を彼に投げかけて微笑む。 「やめてくれえ! ここで死なねえでくれえ!」 この世でもそうみないほどの汚い顔をして、涙ながらに叫ぶルンペルは突然、何者かに蹴り飛ばされた。 ポニートだ。彼は慣れた手つきで、ナッチに刺さっていたナイフを次々と抜きとった。すこし楽しそうだ。もう彼女は助からないだろう。呆然とするルンペルの前で領主はそっと手で触れて緑の光を生みだした。「わたしはな。こんなナリだが元医者だ」
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