二人の盗賊

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 二人に奇妙な関係が生まれたところでドアノブを捻る音がした。廊下から老婆の声がする。 「あれえ? 鍵なんかしてないんだけどねえ……」  室内では二人の間になんともいえない空気が漂う。見つめあう二人。芽生えたのは恋ではなく懐疑だ。 カチャリと音がしてメイドが入ってきた。推定七〇代の老婆だ。  眼をしばたいて小首をかしげるメイドにルンペルは愛想笑いした。 「ああ、どうも。この屋敷の用心棒です」  ナッチは視線をそらしてつぶやく。 「えっと……あたしは……め、メイドです。本日づけで配属されました」  老婆は奇異そうな顔を浮かべた。 「用心棒なんて、雇うわけないし、メイドの話も聞いていませんが……?」 二人は顔をみあわせて、彼女に背をむけた。こそこそと互いに責めたてる。 「なんだ、同業か。嘘つきめ」 「あんたが嘘ついたからややこしいことになったんだろうがブタぁ。」 「ナッチっていう名前も嘘じゃないのか? 本当はビッチなんだろ」 「よし、あんたをぶっ殺すのはあとだ。とりあえずあのババアどうする」 「衛兵を呼ばれると面倒だ。のしちまおう。そして逃げるんだ」 「あんなババア、ちょいと脅すだけで十分だ」  作戦もへったくれもない作戦会議が煮詰まったところで二人はむきなおった。 「悪いなババア。あたしらは盗賊だ。死にたくないなら……」  ナッチは言葉に詰まった。眼前のメイドが冷めた目で両手に雷撃を生みだしている。間違いない。この老婆(ババア)()る気だ。王族のメイドなだけある。水魔法を得意とする彼女が水をまとった。「へえ、年寄りのわりに戦う気かい」  ルンペルは花瓶に生けられたバラを抜きとった。草花魔法でバラの剣を作りだす。「悪いなババア。そっちがその気なら、ちょいと痛い目をみてもらうぜ」 バラ製の剣は、柄にまでびっしりと棘がはえている。握りしめている彼のほうがすでに痛い目をみているが背に腹はかえられない。 メイドはにやりと底意地の悪い笑顔をさらした。 「この世界において、外見や年齢なんて、なにひとつ闘争に関係しないよ」  放たれた紫電をナッチは、鼻で笑って水で受けとめる。当然の如く表面を伝う雷によって、感電した彼女は気絶した。  続いて放たれた紫電を、ルンペルは全神経を研ぎ澄まし――雷撃に瞬息の一太刀をくわえる。雷撃を両断することに成功したが、これまた当然の如く感電して彼は失神した。この屋敷に衛兵はいらない。強力なメイドがいるのだから……。
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