ドタバタ捜査

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衛兵からもらった羊皮紙を取りだして、ルンペルは衛兵がまとめた事件の状況を、文字が読めないナッチに話して聞かせた。 「えー……被害者は五人。四人の家族と遊びに来ていた友人一人。ここで大人三人が正面から心臓を一突きで殺され、二人の息子が寝室で殺されていた。争った形跡はなし。なんらかの魔術が行使されたものと思われる。盗まれたものはなし。犯行時刻は夜深い時間帯である――だとよ」 「強盗のくせになにも盗ってないのかよ。もったいねえなあ」 「それよりもその……気持ちの悪い魔術紋が目的なんじゃないのか?」 「かもな。しかし、こんなんみたことないな。まったく、トチ狂った人殺しの考えることはわからねえな」  彼女は腕を組んでテーブルに目を移した。「食器の数は三人分……。招かれざる客だったわけだ」 「でも、どうやって乗りこんだんだ? 魔法防壁があるから開錠魔法も転移魔法も使えないぞ」 「じゃあ、あんたはどうやってこの家に侵入したんだ」 「ああ。草花魔法かあ」 「あるいは鋼鉄魔法か。血痕の位置がテーブル周辺にしかないってこたあ、相手は三人の貴族を拘束して殺してるな。魔法使いなのは間違いないだろうな」 「拘束できる魔法は多いからなあ……」 「鏡の破片も謎だな。争ってないのなら、殺した後で割ったってのか……」  不意に外から声が聞こえた彼女は、そういいながら窓の外から玄関先をみおろした。頭に三本のチューリップを挿したメイドらしき女が、女装した衛兵を連れている。 「本当に、ここにはいって行ったんですわね?」  衛兵が念を押して問いかけると、チューリップの一本が叫ぶ。 「ええ、間違いないわ! 怪しい女と変な男がこの家にはいったんです!」  二本目が〈きっと殺人鬼よ!〉と叫び、三本目が〈現場に戻ってきたんだわ! 早く捕まえてちょうだい!〉と怒鳴った。  その会話を聞いて二人は困惑する。 「おいデブ、やばいぞ!」 「ああ、あんなやつらに変な奴呼ばわりは心外だ! 俺あ、好きでこんな顔に生まれたわけじゃねえ……」ルンペルは泣きだした。
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