ドタバタ捜査

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強引に逃げるしかない。ここにきて事態を把握したルンペルはナッチとともに裏口から飛びだして、二人の横をそれぞれ左右にすりぬけた。繋がれた鎖によって強烈なラリアットを食らい、倒れた彼らの意識が遠くへと旅立つ――。 裏通りを抜けて、貧困層の集う区画まで逃げた盗賊二人は、裏路地で小休をとった。膝に手をついて肩で息をするナッチの傍らで、ルンペルは白目をむいて、口からこぼれかけた魂で呼吸している。 その顔にナッチは腹をたてた。彼の歩みが遅いせいで衛兵と鉢合わせることになった。文字通りの足手まといだ。じきに目が覚めた衛兵によって指名手配を受けることになるだろう。 くしくも彼女も母子家庭だ。オークの母とゴブリンの父から生まれたのはまさかの美女。父は母の浮気を疑い家をでていった。それから母と暮らしたものの、所詮はオーク。知能があまりにも低すぎた。  物心つくまえから、母親の馬鹿さ加減にうんざりしていた彼女はある日、本当に浮気だったことを知って愛想をつかした。男の堕天使とひと夏のラブロマンスを過ごしたらしい。そして、彼女は一人で生きていくことを決意していまに至る。  ルンペルのその間抜けな顔はまさしく母親の顔にそっくりだ。犯人を捕らえる原動力があるとすれば、それは死の呪縛からの解放ではなく、脂の呪縛からの解放を願うからにほかならない。 「ブタあ、次の現場に行くぞ。指名手配を食らうまえにむかわないと動けなくなる」 「おれあもう動けねえよう! 足が棒だ」 「そんな太い棒ねえよ。燻製すんぞ。動け!」  
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