ドタバタ捜査

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町の裏通り、道行く町人たちは異様な光景に戸惑いをみせていた。樹木魔法で作られた台車にオークが乗り、売春婦のような女が鎖を引っ張ってズンズンと進んでいる――。 二件目の現場は喧騒からはずれた場所にあった。石造のアパートに挟まれる形で、奥まったところに様式不明のボロボロな木造一戸建てがひっそりと佇んでいる。  玄関前まで来たナッチは、運搬を終えて膝をついた。疲弊しきったからだが動くことを拒否している。そばでは体力が回復したルンペルが、上機嫌に羊皮紙を取りだす。彼女としてはそのまま出荷したいところだったが、メイドに科せられた呪いがそれを許さない。 「えーと……殺されたのは高名な魔法使いの老人。氷結魔法の権威だったらしい。まあ、この歪んだ家をみるかぎり、大方予想できるなあ。犯行時刻は推定四日前の夜だってよ」 「はあ? 嘘だろ。魔法使い? なら……侵入方法はなんだってんだ。どうせ家全体には魔術結界、窓には魔法防壁がそれぞれ重ねがけされてるだろうし……ほらみろ、ドアノブには鍵穴すらねえ。本人のみぞ知る特殊な開錠魔法でしかひらかない証拠だ。この手の連中は自意識過剰でクソ用心深い。ほかにも、いろんな攻撃魔法に対処するための魔法を使ってるに決まってる。侵入なんてできねえし、会うことすら難しい。盗賊はもとより、強盗団だって狙わない物件だぜ?」  身振り手振りで話す彼女をよそに、ルンペルは無言で窓の一つを指した。カラスが破られ、木枠が破壊されている。 「犯人は大きな石をぶん投げて、窓を壊したんだとよ」 「あ……そう。強引」 魔法にたいする防犯対策が完璧でも、物理的な防犯がまるでできていないのは、魔法使いや魔術師によくある落とし穴だ。 殺人鬼に倣って二人も窓から侵入した。入るときに、彼女に手を貸そうとルンペルは顔を赤らめて手を差しだしたが、ナッチはその手をはたいて自力でよじ登った。無駄な肉体労働をするはめになった腹いせというより、たんに彼の顔がむかついたからだ。
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