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入口のセンサーに磁気カードを当ててドアを開けます。
セキュリティが厳しいんです。何せ、日本でも大手の通信会社ですから。
この建物、外から見てるとそんなに大きく思わないんですけど、けっこう広いんです。社員食堂まであるんですよ。
社員の人は、入社するのに大変なんでしょうね。私はパートバンクから紹介されただけですから。9時から5時までの入力の仕事です。
最近はインターネットが当たり前の時代ですからね。新規加入もありますけど、更新も多くて。そんなの自動更新にすればいいのに。いちいち見直して入力してるなんて、一般の人は、知らないですよね。
3階の南側の一番大きな部屋が、私の仕事場です。
ちょっと入る前に、深呼吸させてください。
すうう、はああ。すうう、はああ。
よし、と気合いを入れて、重いスチールのドアを開けます。
主任の小谷さんが、パッと顔を上げてこちらを見ました。眉間にしわを寄せたように見えたのは、気のせいでしょうか。小走りで、小谷さんのデスクまで行きます。
「観音様のお当番から戻りました」
「……はい。早く席に着いて」
そう言い終わらないうちに、もう小谷さんは下を向いて仕事を始めています。
大きなフロアーに、グループがいくつもあります。
私の所属している『汎用グループ』は6人いて、そのうち社員が3人です。
主任の小谷さんは、小太り、半眼、プライベート不明。
もう一人の男性社員、橋本さんは、枯れ木のようなおじいさん。
そして女性社員の村田さん。その隣が私の席です。
村田さんは電話中だったので、頭だけ下げました。村田さんは私を見て、にこっと笑いました。私より少し若いようです。ショートカットで眼鏡が似合います。
初日に村田さんと顔を合わせた時に、どこかで会ったことがあると思ったんです。顔でなく、眼鏡を見ていて気が付きました。
「村田さんの眼鏡、Mu-genですね」
ふちなしで、テンプルが究極に細くて軽い眼鏡です。
「え! よくわかりますね」
「昨日まで、市川メガネに勤めていたので」
「えー、そうなんですか。あそこは近くだから、すぐ調整に行けて助かります」
そうだと思いました。斜向かいだから、お客さんだとしても全くおかしくないわけです。むしろ、元の職場が目と鼻の先という私の方が、奇特だと思います。
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