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あと少しで12時です。他の人もちらちらと時計を見ています。チャイムが鳴りました。
「お昼、行こ」
同じグループのパートの山崎さんが声をかけてきました。
山崎さんは今年の4月から入ったそうです。同い年ですが、もう息子さんは高校生です。
「私も行くわ」
岡本さんもパートです。以前、読者モデルとして雑誌に載ったことがあるそうです。髪もお肌もツヤツヤです。
食堂はいつも、長蛇の列です。3階で働いている人の顔は、何となくわかります。でも2階のデータ管理部や工事関係の部署の人達は、わかりません。
「じゃあ、あっちで席取っておくね」
「お茶、持ってって」
岡本さんは、いつもここの日替わり定食を食べています。私と山崎さんは、お弁当を持ってきます。席に行くと、同じグループの三木さんが来ていました。三木さんは、私と同じ日に入ったパートさんです。24才です。福井の彼と遠距離恋愛だったんですが、その彼が煮え切らないので、何と、大阪から押しかけてきて同棲を始めたんですって!
「あら、早かったんやね」
「後からちょっと、外出てきたいし」
「外、寒かったよ。今夜は雪降るかもしれん」
「え? ほんま? うちブーツ持っとらん」
みんなは、ニヤニヤ笑います。
「え? 何? 教えてえな」
「福井でおしゃれなブーツなんか、履けんて」
「ほや、ゴム長靴やよ」
「いやあ、うち長靴なんて、小学校の時から履いたことないで」
福井のことを知らない三木さんをそうやってからかいます。いじめてはいません。それに、そんなことで三木さんはめげません。恋のために、彼しか頼る人がいない土地に来る女は、肝が据わっています。若いのに尊敬します。
「心配せんでも、初めからそんなに積もらんよ」
「ほんまに? 積もったら長靴買おて」
「うわ、出た。なにわの女」
「おおきに」
ほら、かなりの強者でしょう? 細面のスッとした美人なんですけどね。
入力したデータは、4時になるとチェックします。プリントアウトしたデータを交換してするんです。確認しながら打ち込んでるはずなのに、間違いが見つかります。今日は嬉しいことに、ノーミスでした。申込書をファイリングして、5時に終業です。
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