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2月26日
観音様、だいぶ雪が解けてきましたね。
路肩の雪は泥をかぶって、黒く汚れています。まだ降るかもしれないですね。
くしゅん。すみません。さっきから悪寒がするんです。
お花だけ替えたら、失礼します。
でも、お参りは……やっぱりもういいです。
この仕事を続けたいのか、わからなくなってきました。
くしゅん。早く中に入らないと。
ドアを開けると、フロアー中の人たちが、一斉にこちらを見たと思いました。突き刺さるような、白い視線です。
ここに来て、もう8ヶ月もたつのに、私は少しもなじんでいません。
ここは、私の居場所ではありません。
私はもう一度、ドアの外に出ました。
うずくまって呼吸を整えていると、柱の向こうで誰かが電話で話しているのが聞こえました。あれは、小谷さんの声です。びくっとして、慌てて立ち上がりました。
「村田はエスジイにはできません。社員ですから。はい、もともとエスジイは赤木ですから、それで進めてください」
え? 今、私の名前を言いましたよね?
それにエスジイと言っていました。どこかで聞いた覚えがあります。
私は音を立てないようにドアを開けて、するりと中に入りました。
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