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「お客様、こちらへ。壁際に移動して、身を低くして──」
さっき対応してくれたお姉さんが、私を含めたお客さんたちを誘導してくれる。
小声で、冷静に。
だけど──。
手が微かに震えている。
きっと怖いんだろう。
それを見て、いよいよ現実味が帯びてくるのを感じた。
ああ、これ夢じゃないんだ――……。
今、この銀行には、刃物を持った全身黒ずくめの銀行強盗がいるんだって――……。
そうしている間にも、男はズンズンと窓口まで歩み出て、銀行員のお姉さんに汚い声でまくし立ててはおもちゃみたいなナイフを振り回して「金、出せ!」と興奮したように脅している。
私は男の目に映らないよう、椅子の陰に隠れていた。
嘘だ――……。
嘘だ嘘だ、こんなの。
私、貯金箱の中身を両替しに来ただけなのに。
こんな目に遭うなんて――。
息を潜めて椅子の脚を掴み、避難訓練で机の下に隠れる時みたいに体を丸くする。
大丈夫。
大丈夫。
絶対やり過ごせる。
てゆーか絶対誰かが捕まえてくれるよね?
そう思いながら、ぎゅっと目を閉じて泣くのをこらえていた。
その時、お姉さんの誘導が目の端に映ったのか――。
「おら! 動くなっつったろコラァ!」
犯人が、大声でお姉さんに怒鳴りつけた。
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