ちゃりん丸・1

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 私は心の片隅で「動くななんて一言も言ってないだろ」と思いながら、ビクビクと一層体を縮み込ませた。  お姉さんはピクリと肩を震わせ、犯人に振り向いた。 「だから! 動くな! つったろコラァ!」  神経が過敏になっている犯人は、動くもの全てに過剰反応している。  ──と、その時、犯人の背後でカタンッと何かが落ちる音がした。  お客さんの一人が、スマホを落としたようだった。  犯人が音のした方に振り向く。  私はその時――……。  ……今にして思えば、恐ろしいことなんだけど。  本当に、無謀でバカで無鉄砲なことなんだけど。  咄嗟に、胸に抱えていた物を右手に持ち替え、強く握りしめていた。  そして、犯人が向こうに気を取られている隙に立ち上がり──。 「……えい!!」  思いっきりそれを、犯人目がけて大きく投げつけていた。
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