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私は心の片隅で「動くななんて一言も言ってないだろ」と思いながら、ビクビクと一層体を縮み込ませた。
お姉さんはピクリと肩を震わせ、犯人に振り向いた。
「だから! 動くな! つったろコラァ!」
神経が過敏になっている犯人は、動くもの全てに過剰反応している。
──と、その時、犯人の背後でカタンッと何かが落ちる音がした。
お客さんの一人が、スマホを落としたようだった。
犯人が音のした方に振り向く。
私はその時――……。
……今にして思えば、恐ろしいことなんだけど。
本当に、無謀でバカで無鉄砲なことなんだけど。
咄嗟に、胸に抱えていた物を右手に持ち替え、強く握りしめていた。
そして、犯人が向こうに気を取られている隙に立ち上がり──。
「……えい!!」
思いっきりそれを、犯人目がけて大きく投げつけていた。
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