疑惑

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固いベットで目を覚ますと、ユウトがむすっとした顔で覗き込んでいた。 「……ユウト」 何も言わずに額のタオルを替えてくれている。向けた背中がひどく傷ついているように見えた。 「どうして部屋飛び出したりしたんだよ」 「! それは……だって」 俺はたまらず身を起こす。どうしてと聞きたいのは俺のほうだ。 なんでカナメの写真が……聞きたいけど聞けない。触れてはいけない気がした。 「大変だったんだぞ……男一人担いで部屋まで運ぶの」 「……すまん」 「今日だって……お前と色々出来るの楽しみにしてたのに……」 すまん……と言いかけて、俺は 「え?」 と顔を上げた。 ユウトの目のフチは赤くなっている。 俺を最高にその気にさせる、物憂げな顔だった。けれど。 「……ユウト。悪い、俺もう……」 お前を抱けない。 出せなかった言葉は、言葉以上にユウトに伝わって、激しく心を乱したようだった。 「なんでだよ……」 そう言ってユウトが泣くので、俺はかろうじてヤツの頬に手を伸ばした。ホテルでのあの日、初めて触れた頬。 「スクラップブック……見たんだろ?」 「……うん」 俺は目を閉じる。 ああこれで全て終わるんだと思った。 「それで何を誤解した?! 俺がお前の元相方に、恋してるとでも思ったか?!」 「うん……え」 荒ぶる声に俺は目を開けた。 「……違うのか?」 気がつくと、ユウトは俺に馬乗りになっていた。 「ナニ見てんだよ、お前は!!」 ユウトが強引にキスしようとするので、俺はそれをはね退けた。 「ちょっと待て、まだ話しが……」 「話さなくてもわかるだろ?! 好きでもないヤツと、こういうことするのかよお前は!」 その質問には答えられない。なぜなら俺は平気で誰とでも『こういうこと』が出来てしまう人間だからだ。 「ユウト、俺はただ……」 「俺は確かにお前の元相方の写真を集めたよ。けどそれは敵に勝つためだ!情報収集して、お前の中から完全に本城カナメを消すためだよ!!」 本城カナメというのがカナメの芸名だ。 そんな……ユウト……お前まさか…… 「……嫉妬、してたのか……?」 ユウトの頬に触れた手に、はらはらと涙が伝ってくる。 俺とカナメの微妙な距離感まで、ユウトが知るはずもない。けど、会ったことがあるなら感じ取ってはいたんじゃないか。 「……会ったのか? カナメに」 「ああ! 宣戦布告してやった!」 「……何も、されなかったか?」 そう言うとユウトは表情を強ばらせた。 それに関しては怒ることもない。 俺が何も言わずに頬を撫でていると、観念したように頭を垂れた。 「……土下座……させられた……絨毯に頭擦り付けさせて……」 「……」 「『お前はハヤテを困らせてる』って散々関西弁で言われて……」 「……」 俺はぷっと吹き出した。続いて腹を抱えて笑いだす。 「なっ……何がおかしいんだよ!」 「いや、カナメのことを誤解してたなと思って」 「!!」 俺の言葉にユウトは口を尖らせた。 「……俺の前で、他のオトコのこと話すなよ……」 「……」 ユウト。そう言って俺がベッドに引き寄せると、ヤツは耐えかねていたように俺の首に手を回した。
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