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目の前が真っ青になって、カラダじゅうに激しい痛みが走って、何かが破裂するような音がして――
ゴボゴボゴボゴボ。
気付いたら、ボクは元居た柵の前に仰向けになっていた。
「――!!」
熱い唇の感触がボクの口を覆って、ボクはそれを息を吹き出すように押し返す。
「……あ、戻った」
見ると先ほどボクを見つめていた男の子が、横に膝をつき座っていた。
どうやらボクに「人工呼吸」というヤツをしてくれていたらしい。
濡れた口元を軽く拭っている。
「救急車、呼ぼうとしたんだけど、ケータイ、無いんだ」
すまなそうに男の子が両手をあげると、ボクはモゴモゴしながらありがとう……と言った。でも多分聞こえてない。
「服、濡れてるね」
言われてボクは自分のびしょ濡れの服を見る。
「あっ……ヴァイオリン!!」
「ヴァイオリン?」
川に流されてしまったんだろうか。どうしよう、ママに怒られる。
いや、その前にこのびしょ濡れの服をどうしようか。ボクは普段から水遊びするような子供じゃない。
「ヴァイオリンなら後で見つけてあげるよ」
「えっ、でも……」
「その前に服を乾かそう。俺も濡れちゃってちょっと寒いんだ」
そう言って肩をすくめる男の子も、言われて見ればびしょ濡れだった。
そうだ、人工呼吸だけじゃない。川の中に飛び込んで、ボクを助けてくれたのだ。
「あっ……ありがとう! お兄ちゃん!!」
ボクはなんとか言って、すぐに顔が赤くなるのを感じた。人前で大きな声を出すのは初めてなのだ。
一人っ子のボクが人を「お兄ちゃん」と呼ぶのも。
男の子はそんなボクを見てニッコリと微笑み、
「ついておいで」
とボクに手を差しのべた。
服を乾かせる……そう思ってボクは男の子の手を取った。
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