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「さー! 片付けるわよ!今日は徹底的に片付ける!!」
ごく一般的な家庭、朱堂家のGWは母親のそんな言葉から始まった。
「いーい? 感傷に浸ってちゃ駄目よ!そんなことじゃ片付く物も片付かないんだから!」
「でも母さん、おばあちゃんの想い出の品とかもある訳だし・・・」
「死んだ人の想い出の品までとっとくような余裕うちにありますか、今日は徹底的に捨てる!」
女は弱し、されど母は強し。そんな言葉の生き証人である母親の言葉は、朱堂家においてはほぼ絶対であったため、長男は黙って引き下がった。
いくら末娘が進学にあたり部屋が必要だからと言っても、葬儀は終わったばかりの祖母の部屋を丸々空け渡そうなどなかなか剛毅な発想をお持ちのご婦人だ。
そのせいで私は窮地である。
せめてあと一カ月くらいは感傷に浸っていてほしいものだが・・・。
「はい、それも捨てる!ゴミ袋じゃんじゃん持って来て! 分別くらいできるわよね、神流!」
神流と呼ばれた少女は、母親の気迫にびくりと肩を震わせた。確か、あれは次女か。
家での存在感はひときわ薄い娘だが、祖母にはよく懐いていた。憩いの場であったはずのこの部屋を空室にする作業となれば、心境的に一番きついのはこの娘のはずだ。
本当に剛毅な性格だな、母上殿よ。
「で、でもお母さん・・・」
「なあに?」
「ひっ・・・、何でもない」
・・・母上殿、それが我が娘に対して向けてよい殺気か。可哀想な娘だ。しかし私には今お前を哀れんでやる余裕はない。
今まさに、お前の手で私の運命は決められようとしているのだから・・・。
「お母さん、あのね」
「なによ、手早くやらないと今日中に片付かないでしょう!」
「こ、このペンだけは・・・」
「何よそのおんぼろ、捨てちゃいなさいそんなもの」
おんぼろとは失礼な。
新しいものに比べれば見た目の美麗さには劣れど、一級品の万年筆だ。物の価値もわからんのに断捨離など本当にできるのか?母上殿・・・。
「お母さん、これだけは捨てないで・・・」
「あのねえ、そんなこと言ってちゃ捨てれるものも捨てれないって言ってるでしょう!」
「わ、私が使うから!か、形見にちょうだい!」
「全く・・・。それだけよ!他は捨てるからね!」
「はい!」
神流少女はほっと息を吐き、万年筆を握りしめた。
なんと・・・、まさかこの少女に窮地を救われるとは。
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