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君は誰も愛さない。
まず最初に間宮宙という人は、こう答えた。
品のいい身なりに優雅な所作。その佇まいからは目が逸らせない。
それが間宮宙を初めて見た時の僕の第一印象だった。後に知るその鋭い洞察力も、今思えばどことなくその瞳から溢れていたように思う。頭のいい人間は眼差しが違うのだ。
でもでも……。
僕は、この人から早く逃げだすことだけを考えていた。
「そんなことないわ」
「誰も愛さない」といわれた山咲さんはや不満気な様子で否定した。
当然だ。 いま山咲さんは「好きな人がいる」と話しているのだから。
「この人はお前に恋愛相談をしているんだぜ」
そばにいる白衣姿の男性も穏やかにそういったし、
――― そのとおり。
と僕も内心大きく頷いた。
間宮さんはカウンタの上にカップとソーサを置いた。たったそれだけの動作もとても絵になっている。間宮さんは続けた。
「恋愛を成就させたければ、まず自分という人間のパーソナリティを知る必要がある。自分のパーソナリティを分かっていない人間は、いつまでも間違った相手を選び、同じ失敗を繰り返す。例えば、毎回浮気する人間、DVをする人間、絶対に自分を好きにならない人ばかりを選んだりするのは、自分のパーソナリティを理解していないからだ」
間宮さんの説明に、山咲さんの連れの女性二人も大きく頷く。
「じゃあ、私のパーソナリティは何ですか? 分かるんですか?」
山咲さんが聞いた。
「分からなくはない」と間宮さんが答えた。
「じゃあ教えてください」
山咲さんは薄笑いを浮かべ、挑戦的な目つきで間宮さんを見た。
――― こんなところに来るんじゃなかった。
僕はすでに後悔し始めていた。
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