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実習終了
実習最終日、僕らはいつものように各病棟へ向かった。
そして朝の手伝いを終え、午前中は入浴の手伝いに入り、貼り絵作業に取り掛かったのは、昼の部からだった。
「あら、今日は遅かったですね」
鈴木さんはテレビ前のいつもの場所で、ちょこんと佇んでいた。
「すいません。ちょっとお風呂の手伝いに行っていまして」
「いえいえ。じゃあ始めましょうか」
鈴木さんの中では貼り絵作業が毎日の日課になったらしく、当たり前のように作業に取り掛かった。
今日は最終確認。
足りない部分の色を足し、完成した作品を壁に飾る工程だった。
模造紙の細かな部分に色を塗り、最後の色塗りを終えた僕は、作品の完成を児玉さんに報告した。
「うわぁー!こりゃすごいのができたなー!」
児玉さんは驚いていた。
模造紙には楓とイチョウ、そして老夫婦が描かれていた。
楓は赤を中心に、オレンジ、黄色、そして所々に緑が散りばめられ、鮮やかに仕上がっていた。
イチョウは黄色を中心に、オレンジや黄緑を少し入れて、落ち着いた感じに仕上がった。
そして中央にいる老夫婦は、少しぼやけた仕上がりになっており、素敵な秋の風景がそこに描かれていた。
「この真ん中のお二人は、鈴木さんと寅雄さんですか?」
児玉さんが鈴木さんに問い掛けると、鈴木さんはハハハと笑った。
仕上がった絵の下部分に9月と10月の日付を手早く書き入れ、その作品は完成、すぐに食堂の壁に飾られた。
もうすぐ8月が終わる。
そして、僕の実習も終わろうとしていた。
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