ヤエおばあちゃん

1/5
前へ
/23ページ
次へ

ヤエおばあちゃん

 後ろを振り返ると、車椅子を漕いでこちら向かってくるおばあさんがいた。  明らかに僕に視線を向けている。  それもただの視線じゃない。  血走った目でこちらを見据え、こちらに猛進していた。  僕はどうしてよいかわからず、その場で硬直していたところ、すぐに看護師が駆け寄り、その方をなだめていた。  しかし、その老婆は僕の方を見つめたまま、看護師を振り切ろうと必死だった。  僕は児玉さんに連れられて、控室へと連れて行かれた。 「驚かせてごめんね」  児玉さんは優しく語りかけた。 「あの人…知らない人を見かけると、ああいう風になっちゃうんだ。  決して悪気はないんだよ」  2人分のお茶を淹れ、1つを僕に差し出した。  僕はまだどきどきしていたが、児玉さんが出してくれたお茶を一口飲むと、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加