老 婆

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老 婆

「寅雄さん…とらおさーん!」  その老婆は、僕に向かってそう叫び、車椅子を漕ぎながら近づいてきた。  僕は寅雄じゃない…。  僕は慄きながら、後ずさりした。  年配の看護婦さんがすぐに近寄り、その老婆をなだめていた。  老婆は落ち着くことなく、僕の方を一心に見て、「寅雄」という名前を叫び続けていた。  僕は寅雄じゃない…。  その声を無視して、僕は控室へと連れて行かれた。
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