30階

1/2
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

30階

「下へ…」 「ちょっと待って!」  私は閉まりかけのドアを手で押さえた。  前と同じ服装の彼女は、大きな目をさらに大きくして私を見た。私は彼女のきれいな目を真っ直ぐ見返し、口を開いた。 「このエレベーター、上には行かないんですか?」  あれからさらに1か月。エレベーターに乗る度に、彼女を探した。私を過去へ連れて行った、エレベーターガールの彼女を。 「……上、ですか?」  閉めさせない逃がさないため、ドアを押さえる手に力を込める。 「あまりお勧めしませんが…」  彼女は困ったように、目を伏せた。 「行けるんですね!」  少し強めに攻め寄ると、彼女は怯えたように一歩下がった。 「えっと……エレベーターですから。でも…あんまり…良くない、ですから…」  おどおどしながら、何度も止めようとする彼女の態度が気にはなったけれど、私にはもっと気掛かりなことがあった。 「いいの!ほんの少しでいいから、上に行きたいの!」 「そこまで仰るのなら…」  彼女は諦めたように大きく息を吐くと、背筋を伸ばし「上へ参ります」と言った。  私はドアを押さえていた手を放し、固唾を飲んでエレベーターが動くのを待った。  チーン 「30階でございます」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!