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30階
「下へ…」
「ちょっと待って!」
私は閉まりかけのドアを手で押さえた。
前と同じ服装の彼女は、大きな目をさらに大きくして私を見た。私は彼女のきれいな目を真っ直ぐ見返し、口を開いた。
「このエレベーター、上には行かないんですか?」
あれからさらに1か月。エレベーターに乗る度に、彼女を探した。私を過去へ連れて行った、エレベーターガールの彼女を。
「……上、ですか?」
閉めさせない逃がさないため、ドアを押さえる手に力を込める。
「あまりお勧めしませんが…」
彼女は困ったように、目を伏せた。
「行けるんですね!」
少し強めに攻め寄ると、彼女は怯えたように一歩下がった。
「えっと……エレベーターですから。でも…あんまり…良くない、ですから…」
おどおどしながら、何度も止めようとする彼女の態度が気にはなったけれど、私にはもっと気掛かりなことがあった。
「いいの!ほんの少しでいいから、上に行きたいの!」
「そこまで仰るのなら…」
彼女は諦めたように大きく息を吐くと、背筋を伸ばし「上へ参ります」と言った。
私はドアを押さえていた手を放し、固唾を飲んでエレベーターが動くのを待った。
チーン
「30階でございます」
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