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「次のお客さん、どーぞ」
川岸に舟をつけて、俺はそう声をかけた。
「あの、三途の川って舟を使わず渡ったり、橋使ったり、とか...」
「あぁ、そりゃあ随分、昔の話ですね」
ここは彼岸と此岸の間を流れる川。
昔は罪の重さによって激流に揉まれながら蛇に食われたり、宝石の橋を渡ったりもしたけど。
「今じゃその制度はなくなりましてね、亡者は善悪関係なく俺達漕ぎ手がご案内するんです」
「はぁ」
生返事をして亡者の男は居心地悪そうに左前の白装束を触る。
「さぁ、舟を出す時間です。どうぞ」
「は、はいっ」
「漕ぎ手の廻(かい)です、よろしくお願いします」
「お願い、します...」
ギィ、と甲高い音を立てる舟に客を乗せると、俺は舟を勢い良く出した。
しばらく漕ぐと、白くまとわりつくような霧が広がり波が穏やかになってくる。
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