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今日も、声が聞こえる。
聞きたくもない、耳障りな声が。視界に入る者たちの――他人を蔑む心の声が。
怒り、妬み、嫉み、そして憎しみ――。
城の中は負の感情であふれていた。ここにいるのは、不快で、汚い、醜悪な根を持った者達ばかり。
本当に僕に――父上に忠誠を誓うものなど、ここには誰一人としていなかった。皆何かを企み、そして、他人の大切なものを奪い、壊していく。
ここはそういうところだった。そんな、強かな者しか生き残れない場所だった。
弱いものは負け、ここから追い出されていく。強くなければ生き残れない。強い盾と、矛――その両方を持つ者でさえ、それだけではここで勝者になることは出来ないのだ。
僕の頬を、暖かい風が撫でる。
僕はいつものように部屋を抜け出し、誰もいない城の裏の庭園へ来ていた。
そこには美しい白いユリの花が咲き乱れていて、それだけが僕の心を癒す。ここだけが、普段は誰もいないこの場所だけが、唯一僕のいられるところ。僕が唯一、自分の気持ちを吐き出せる場所。
「……大嫌いだ、皆、皆ッ!!」
母上も、侍従も、侍女もメイドも、皆、皆――。
僕は花壇のレンガに座り込んで、一人叫んだ。
ここには――僕の味方など一人もいない。誰一人として、決して僕と目を合わせようとしない。
僕のこの赤い目を恐れて。僕に心を読まれることを、恐れて。
そう、だって、僕を産んだ母上でさえ、僕を気味悪がり、遠ざけるのだから。
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