第2章 束の間の平穏

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 夏の日差しも衰えてきた。  初秋の朝は、肌にさらりとして気持ちがいい。  私が薄っすらと瞼を開けると、カーテンの隙間から淡く澄んだ秋の日光が差し込んでいた。  ――あぁ、朝だわ。  私は、真っ白なリネンのシーツが敷かれたベッドから、ゆっくりと身体を起こす。  そして、私の隣に仰向けの状態で静かに寝息を立てている、ウィリアムを見つめた。  あの日――ウィリアムから一緒に住もうと言われてから、もう二か月が経つ。ウィリアムの言葉は決して嘘では無かった。私のお父様から許しを頂いた彼は、私の荷物もそのままに、何かに焦ってでもいるかのように私をこの屋敷に迎え入れた。その日から、私はこうやってウィリアムと寝室を共にしている。とは言っても、彼は私に指一本触れて来ないけれど……。  それが不満でないと言えば嘘になる。けれど私は、それでも十分幸せだ。  私はゆっくりと部屋を見まわした。この部屋――ウィリアムの寝室には何もない。この部屋は本当に――この私アメリアの部屋以上にシンプルで。白い壁と紺色の絨毯をベースにして、茶色いベッドとテーブル、一人掛けのソファが二つ、そして本棚にチェスト。ここにあるものと言えば、ただそれだけ。  ――いつだったか遠い昔、誰かが言っていた。部屋を見ればその主の人となりがわかる、と。部屋はその主の心を映し出しているから、と。それならば、この必要最低限のものしかないウィリアムの部屋は、何を表わしているいるのだろう。彼の心の中にはこの部屋の様に、本当に何もないのだろうか。  私はここに来たばかりとき、そうやって悩んでいた。けれど今はそれさえも、気にならない。そんなことを考えている時間さえ、勿体ないと気が付いたから。
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