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「アメリア様がこの屋敷に来られてから、もう二か月経ちますが、生活には慣れられましたか?」
ルイスは微笑む。それはそれは優し気に。
そんなルイスに、アメリアもまた微笑み返す。それはそれは柔らかに。
そしてアメリアは、ふとルイスの服装に目を移した。今日のルイスは、無地の白いシャツに、黒と藍色のストライプ柄のベスト、その上に細身の黒いスーツを身に着けている。それはいつものこの屋敷の従僕のお仕着せとは異なるもので、アメリアはそんなルイスの姿を不思議そうに見つめた。するとルイスは、アメリアの考えを察したように、あぁ、と小さく呟く。
「アメリア様もすっかり年相応のお嬢様におなりになられた様でございますね」
そして彼は、その少し切れ長の目元を和ませる。
「お忘れですか?昨日旦那様と奥様が、保養地へ一足先にお立ちになられたことを。それに合わせて、今日から使用人の大半が故郷へ里帰りしますから、服装は比較的自由なのですよ。それに私はそもそもウィリアム様の付き人であって、使用人ではありませんしね」
ルイスはそう言って、緩い笑顔を浮かべた。それは彼が今まで生きてきた長い人生の苦悩など微塵も感じさせないような、気の抜けたような表情であった。
そしてアメリアはそのルイスの言葉と表情に、そう言えばそうだった……と思い出した様子。彼女はルイスに、再び静かに微笑み返す。
アメリアはもう、ルイスのことを詮索しようとも、そしてウィリアムやアーサーについての情報を聞き出そうとも思っていなかった。ルイスとアメリアはお互いにそれを理解して、けれどそれでも、長い長い過去の記憶を持っているお互いのことを誰よりも気にかけている。この二か月という短くも長い時間が、少なくともアメリアをそうさせていた。だから、アメリアはもうルイスを疑いも憎みもしない。好意を持つこともないけれど、悪意を持つことも、ない。
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