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「――あ、そう言えば、アメリア様へカーラ様からお手紙が届いておりましたよ」
そう言ってルイスは、どこからともなく一通の封筒を取り出した。それは金色の装飾が施された、桃色の可愛らしい封筒であった。すっかり見慣れた桃色の封筒。封はスペンサー家の紋で閉じられている。
「今度は何のお誘いでしょうかね」
ルイスはそう言いながら、アメリアに封筒を手渡した。
二か月前、アメリアが川に落ち、その後アルデバランからこちらへ戻って来てすぐ、カーラはエドワードとブライアンを引き連れてサウスウェル家を訪れていた。その丸くて大きな目に、大粒の涙を一杯に溜めて。
”本当にごめんなさい。助けて下さって、ありがとう”
カーラはそう言ってアメリアを抱きしめると、声の出ないアメリアの代わりかと思わせるほどに、大声でわんわんと泣いたのだ。
そしてその日から、カーラは毎日アメリアの元を訪れた。最初は花を、そして次は果物を、その次は有名なパティシエのお菓子を。それはただ、自分を助けてくれたアメリアへのせめてもの恩返しのつもりだったのだろう。けれど、ただそれだけだった気持ちが、段々と変わっていった。
カーラは覚悟していたのだ。アメリアに嫌みの一つでも言われるのだろうと。あの日、自分が恋に敗れたその日、アメリアに八つ当たりをしてしまったことに対して。だってそれが、”氷の女王”のあだ名を持つアメリアの真の姿だと思っていたから。
けれどアメリアは、自分と二人きりになったときでさえ、何も言わない。自分を見つめるその瞳に、憎しみや悲しみの色は欠片も映し出されない。それどころかアメリアは、ただ優しい笑顔でいつも微笑んでくれるのだ。声を無くし――その右手に決して消えることの無い傷を作ってしまったという、自分ならとても耐えられない状況に置かれているのにも関わらず。カーラにはそれが、信じられなかった。
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